方丈記に、似た運命

― 懐かしい古典が、今、蘇る ―


玉掛試験に落ちた話

玉掛試験を受けた話。
しかも落ちた話。

以前、職場の上司から玉掛を取ってくれと言われたことがあった。
部署ごとに誰かが玉掛を取らないといけないらしい。
で、上司から「細川君クラスなら、今度玉掛取ってみんで?」と。
ところで、僕は玉掛を知らなかった。
だいたい「たまかけ」と聞いて「玉掛」が出てくる?
しかも、細川君クラスって何?
高いの?
低いの?

知っている人はすっ飛ばして欲しいけど、
一応説明すると、玉掛と言うのは、
クレーンの先にフックが吊るしてある。
そのフックにロープで荷物を引っかける作業のこと。
正直、そんなに難しい作業ではない。
こう書くと、全国の玉掛作業者から「玉掛を舐めてんじゃねー」って怒られそうだけど。
玉を舐めるなって。
おいおい、そこは舐めるとこじゃないぞって。

次に、玉掛試験のレベルについて。
難易度は五段階評価でE(最低)。
合格率は驚異の9割超え。
正直Fラン資格。
2chだと「玉掛で落ちる奴なんかクソw」と書いてある。

で、僕にこの玉掛を取るように上司が言うわけ。
細川君クラス、だいぶ低かった。
まーまーの底辺。それで、
「あなたがそういう風に私のことをみておられるなら、私もあなたに対して相応の対応を取らして頂きます。ご覚悟を」
ってね、半沢直樹風に言えば面白いかなって思ったけど、
「はい分かりました」って返事してた。
すげーチキン。
ただ、僕は、すでにフォークリフト、クレーン、衛生管理者の資格を持っていた。
で、僕の記憶が正しければ、その延長線上としてひとつ取ってみないかと。
流れ的には、こんな話もあったと思う。

そう、僕は、クレーンの資格を持っていた。
但し、超ロークオリティー。
多分、一日、二日の特別教育で取ったやつ。
いつだったか、部署の有資格者名簿をみんなで確認したことがあった。
で、僕がクレーンの資格を持っていると分かった時のみんなの反応がすごかった。
見た目と全然違うよねーみたいな。
女子からは「クレーン車操縦できるんですか?細川さん、すごいですねー」って。
もーね、みんなの頭の中、工事現場のクレーン車でいっぱい。
しかも、超ひ弱な僕にガテン系男子を見ている。
あゝなんという勘違い。
違うんです。
全然、全く違うんです。
みんな僕のこと皮かぶりすぎです。
じゃなくて、買いかぶりすぎです。
僕が操縦できるクレーンは、そんなかっこいいのじゃないんです。
もっとジミなショボいやつなんです。

それで、このクレーンの資格だけど、クレーンしか動かせない。
で、玉掛の資格だと、クレーンの先に荷物を引っ掛けることしかできない。
死語だけど当たり前田のクラッカーってね。
つまり、クレーンで荷物を動かすためには、クレーンと玉掛の両方がいるわけ。
だから、ふつーは、クレーンと玉掛はセットで取るらしいのね。
じゃあ、どうして僕がクレーンの資格しか持っていないのか?
しかも、一番ジミなショボいやつ。
何とも中途半端な資格の取り方。
理由は忘れた。
と、まー、僕が玉掛を取ろうとしたのは、こんな事情もあったわけで。

それで、玉掛試験は、学科と実技の二つがあった。
学科は真面目に講義を受ければ問題なしのレベル。
当然、僕も真面目に講義を受けました。
集中講義みたいな感じで三日ぐらいあったっけ?
当然、遅刻、早退、欠席はなし。
で、最終講義の日の一番最後に学科の試験があった。
試験内容はもう忘れたけど、一つだけ覚えているのがあって・・・
それが、次の問題。

部屋の前に置いてある木の体積を、目測で求めなさい。

部屋の前の方にね、大きめの木が五本ぐらいかな、あった。
で、それぞれの木の体積を目測で答えてねっていう問題。

で、僕は、この問題、
全滅だった。
△とかもなかった。
ちなみに、それ以外の問題も壊滅状態。
真面目に講義に出て、全滅に壊滅。
本当に玉掛って合格率95パーの試験?
なんかダマされてない?

もーね、ありえない展開なわけですよ。
想定外も想定外。
ちょっと立てないです。
休んでいいですか?
昔、ロザンの宇治原がセンター試験で分からない問題が出て失神してしまい、試験中にもかかわらず保健室に運ばれたと話していました。
まー、そんな感じです。
南無―。

で、次の実技試験は、百点を取らないと合格できないと言われる。

あーもう無理無理。
みんな、僕のメンタルの弱さを知らないでしょ。
期待を裏切るということ決して裏切らないメンタルの弱さ。
「ぜったい大丈夫だって!」って言われても失敗する、安定したメンタルの弱さ。
トランプ三枚配られて、二枚がババという引きの弱さ。

実技試験。
受けるかやめるか本当に迷いました。
いえ、受けないという選択肢はなかったのですが。
数日、熟慮に熟慮を重ねました。
最終的には、「もー落ちたら落ちたときじゃ」と完全に開き直りましたけど。
この時、僕の背中を押してくれたのが、宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長のセリフでした。
「万に一つでも可能性があるのなら、それにかけるのが男のロマン」
「明日のために、今日の屈辱に耐えるんだ。それが男だ」
僕も男なら、今日の屈辱に耐え、男のロマンとやらにかけてみようと思ったんです。

実技試験までは、三週間でした。
ネットで調べたら、学科試験の翌日に実技試験というパターンもあるみたいだけど。
もちろん、家でも会社でも猛練習です。
こういうのは頭で覚えるものじゃないんです。
体で覚えなくてはダメなんです。
それこそ、体が勝手に反応する具合に練習を繰り返しました。
メンタルで負けてはダメだと思い、メンタルトレーニングもしました。
イメトレって言うんですか?
良いイメージをもって臨めば、いい結果がついてくる、そんな成功法則があるらしくて。
一流のプロの選手は、みんな取り入れているそうです。
それで、自分が奇跡の逆転合格をしたことを思い浮かべるようにしてみたんです。
そしたら、これが予想以上の効果がありました。
イメトレの方向を間違えたのか、空想妄想でいつも半笑い。
おかげで気持ち悪いと非難轟々。
最終的にメンタルを心配される始末。
上司から、心療内科に行けと言われました。
で、診てもらったら、試験頑張ってくださいと励まされて帰ってきました。
100%了解です!

そして、実技試験当日。
はじめに注意事項とか伝達事項の説明がありました。
それが終わると、いよいよ実技試験開始です。

僕の順番はだいぶ後ろの方でした。
で、みんなの名前が順番に呼ばれていく。
で、みんな無事に終わっていく。
僕も、自分の番のつもりで、みんなの動作を確認しました。
自分の作業手順に間違いはありませんでした。
そして、ついに僕の名前が呼ばれる。
緊張しながら指定位置に立つ。
ここまで来たら、まな板の上の鯉の状態。
なんなら、さらにその鯉の上に登ってもいい。
深呼吸をする。
一つでもミスをすれば不合格。
これでもかというぐらいに慎重かつ丁寧に手で合図をしたり掛け声を出したりして、薄氷の思いで作業を進めました。
そしたら、半分ぐらいが終わった頃かな、少し余裕が出てきたのね。
で、「何とかこのままノーミスでいけるか・・・」と思ったら、
そしたら、笛がピーッって。

ん?何か鳴った?笛?えっ、何?
こっちも必死だから、よく分からなかったんです。
で、試験官の方を見たら、首を横に振りながら「終わり」と。
もーね、その時の心境たるや、「なんで!?」のひと言。
全くもって意味不明。
そしたら、「退避確認良し」という絶対に絶対に忘れてはいけないひと言がなかったって。
それを先にひと言言えよって思ったけど、時すでに遅し。。。

強制終了でした。
マジで途中で終わりです。
高校野球だと、地方大会の場合、点差がつきすぎるとコールドになるじゃないですか?
それです。
全く違った意味で劇的な幕切れです。
玉掛試験ってコールドありだったのかよって、そこが一番驚きでした。
しかもね、僕の前の受験者で強制終了した人はいないんです。
僕が初めてだから。
だから、こーいう場合、どうしていいのか分からないんです。
で、その場で固まってしまった。
そしたら、試験官がね、もう次の人の名前を呼んでてね、
えっ、僕まだ処理されてないんですけど?
先に俺を処理しろよ、俺をって思ったよね。
最終的に、しれーっとフェードアウトしたけど。

ちなみに、その回の玉掛試験の不合格者は、僕だけだったそうです。
まー、今となってはどーでもいい話。

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