方丈記に、似た運命

― 懐かしい古典が、今、蘇る ―


かわいらしい後輩

以前、僕が働いていた職場。
キャラクターが濃い人が多かった。
で、キャラクターが濃い人がいると、職場は楽しくなる。
特に、僕の後輩だった森君。
とても面白い子だった。
見た目小島よしお。
但し、小島よしおほどの面白さはない。
あと、小島よしおほどの賢さもない。
とにかく挙動不審。
誰かに「森君ってどんな人?」って聞かれたら、迷わず「挙動不審な子」って答えるぐらい挙動不審。
本人ふつーにしててもなぜか職質。
不思議とおまわりさんの視線を釘づけにしてしまう。
それから、しょーもないウソをつく。
しかもすぐにバレる。
体調不良で昼から休む時なんか、後輩から「胡散臭いですよね」って言われる。
でもいいんです。
面白ければ。
森君、一応愛されキャラ。
但し扱いはザツ。

ちなみに、森君は、なぜか一部の後輩から君付けで呼ばれる。
「森君にはもうこりごりですよ」
「僕は、森君の身を案じているんです」
なかなか、後輩から身を案じられることってないと思う。
森君、やはり愛されキャラ。
但し扱いはザツ。

この前ね、地震があったんです。
この辺にしては、まーまー揺れました。
で、みんなで、今の地震大きかったよなーって話していたんです。
そしたら、そこへ森君が来て、さっきトイレで大をしていたんですけど驚きましたって。
で、その時は、「あー、でもトイレって地震の時に安全らしいよ」っていう話で盛り上がって終わったんです。
それ以降も、何回か小さい地震がありました。
そしたら、どうも、森君がトイレに行っているタイミングで起きているって部署の一人が言い出したんです。
で、そうなると「そう言えばこの前の地震の時も・・・」なんて感じになって、
森君がトイレに行くと地震が起きるというジンクスが生まれたんです。
特に大の方です。
そしたら、その内に誰かが、
森君がトイレに行くと地震が起きるんじゃない。
森君がパンツを脱ぐと地震が起きるんだ。
と言い出しました。
おかげで、一週間ほど森君のパンツの上げ下げに注目が集まりました。

そんな森君。
仕事のことで主任から怒られることもある。
でも、主任だって森君のキャラクターは分かっています。
決して、完全に追い詰めることはありません。
しかも、手を焼く部下ほどかわいいとはこのことで、いつも主任は、
「僕には森君の苦しみが分かる」
「森君はまだかわいらしい」
って。
森君、やはり愛されキャラ。
但し扱いはザツ。

そんな僕らの仕事はクレーム対応。
お客さんからクレームで帰ってきた製品を分析する。
そして、どこが悪かったのかをお客さんに報告する。
そんなお仕事。
いつだったか、営業からの朝一のメールで今日中に分析結果が欲しいという案件があった。
で、その仕事をたまたま手が空いていた森君が担当することになった。
「任せてください」と返事する森君。
いやー、森君に今日中の依頼は無理だと思うよ。
なんせ森君、切羽詰まるほど思考が停止するし。
しかも、切羽詰まるほどムダな作業が多くなるし。
挙動不審が半端ないし。

で、昼休み。
営業担当が森君の席にやってくる。
で、進捗状況を尋ねる。
「どこまで進みました?」
「いや、それが、全く分析できてなくて・・・」
はいはい、予定通り。
でも、森君、ここから急に「あっ、でも、全く何もしていなかったわけじゃなくて、どうやって分析するかを考えてました!」って言うもんだから、
営業担当も「どうやって分析するんですか?」って聞くよね。
そしたら森君「どうやって分析したらいいですか?」って。
新喜劇?
昼休みだから?
その会話を聞いていた人、みんなズコーッてなったよ。
最終的に、主任が間に入って、僕に森君のサポートをするように指示をしてその場は終わったけど。

ちなみに、内容的には、不良の原因がクラックによるものか異物によるものかを調べるというものだった。
正直、僕らの仕事の中では、そんなに難易度は普通レベル。
で、僕は、森君に質問する。
「クラックを見る場合、何から分析を始める?」
「X線ですかね?」
「正解。一緒に行くよ」
で、二人一緒にX線観察。
製品内部に線が走っているのが見える。
「森君、この線分かる?」
「クラックですかね?」
「異物っぽい影はある?」
「ないです」
「ということは、今回の不良の原因は?」
「クラックの可能性が高いですね!」
「うん。じゃあ、この写真撮ってX線は終わりね」
で、X線は終了。
「森君、今のX線何分かかった?」
「五分ぐらいですかね」
これぐらいの作業は午前中に完了して欲しかったけどね。

お次は研磨。
さっきのX線画像を参考にしながら、クラックが見やすい位置まで研磨をする。
「森君、研磨は慎重にな。削りすぎないように気をつけてよ」
「はい」
「サンプルはこの一個しかないよ」
「大丈夫です。任せてください」
で、森君が研磨を始めて一時間。
やたらと僕の方をチラチラ見だした。
これ、森君からのSOSサイン。
遭難信号。
で、森君のところまで行って声をかけました。
「おっ、どうした?できた?」
「どこまで削ったらいいかなと思って。この辺ぐらいかなと」
で、顕微鏡で確認してみた。
きれいにクラックが見える。
予想に反して研磨は大成功だった。
「きれいにクラック見えてるねー」
「ですねー」
「これ最後の仕上げをして写真を撮って、そのまま営業さんに確認してもらって。多分、これでいけるわ」
森君、仕上げをして営業担当に連絡する。
で、僕、森君、営業担当の三人で確認した。
森君が写真を見せながら説明する。

森君  :何とか分析終わりました!
営業担当:で、どうでした?
森君  :クラックでした。
営業担当:クラックですか?
森君  :クラックです。
営業担当:間違いない?
森君  :・・・いや、異物です。
営業担当:異物?
森君  :はい。
営業担当:本当に?
森君  :・・・
営業担当:森君、どっちなん?
森君  :これってクラックですか?
営業担当:(笑いながら)僕に聞いてどうするん?

本日二回目の新喜劇。
なぜクラックから異物に方針転換した?
最初から最後までクラックだったよね?
いや、森君には、こういう所があるんです。
相手にどっちって詰め寄られると弱いんです。
なんか不安になって逆を選んでしまうんです。
ですが、これなんかも個性ですよ。
かわいらしいところですよ。
いつか、これで大失敗しなければいいのですが。

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