方丈記に、似た運命

― 懐かしい古典が、今、蘇る ―


カーテンバトル

僕の職場というか僕がいたフロア、女性の割合が多かったんです。
で、男だらけのむさ苦しい他部署と比べると、どこか華やか。
まー、悪くはないです。
ただ、女性が多いということは、そこには女同士のちょっとした争いもあるわけで。
そこには男とは違った別の戦いがあるわけです。
江戸時代の大奥。
ここでも女たちの戦いがあったと聞きます。
で、僕の職場でも似たようなことがありました。

カーテンバトル。
それはカーテンを巡る争い。
大奥と比べるとバトルのレベルがだいぶ低いけど。
窓際の列にね、カーテンを開けたい女とカーテンを閉めたい女が並んで座っていたんです。
で、最初は、お互いにふつーに話もしていたんです。
ところが、何かをきっかけにカーテンバトルが勃発。
カーテンを開けたい女が席を立つと、カーテンを閉めたい女がカーテンをシャー。
カーテンが閉まる。
で、今度は、カーテンを閉めたい女が席を立つ。
すかさずカーテンを開けたい女が、カーテンをシャー。
カーテンが開く。
お互いが席を立つたびに、カーテンがシャーシャーシャーシャー。

ええ、うるさいです。
今日は、二人とも熱くなり過ぎたのかシャーの回数が多かったです。
平和なご時世にあって、正直どうでもいい争い。

それで、お互いが直接やり合うのかと言うとそれはないんです。
大奥みたいな感じです。
お互いがお互いを無視する。
お互いが自分を高く見て、相手を下に見る。
こんな感じです。
口で言わない分、態度に出るっていうやつ。
そして、表立って言わない分、裏で悪口を言うっていうやつ。

これね、僕の中で興味深いことがありました。
例えば、カーテンを開けたい女が給湯室に行ったりしますね。
で、そこには同僚の女の子が何人かいる。
で、カーテンを閉めたい女の悪口を散々に言いまくる。
あいつ頭おかしいよなー
あいつほんとムカつくよなー
あいつどっかに異動したらいいのに

で、ひとしきりカーテンを閉めたい女の悪口を言って「さー、もう少し頑張ろっと」と思いながら席に着く。
ん?
暗い?
暗くない?
暗いよね?
開けたはずのカーテンが閉まっている。
その瞬間、もーね、目付きがイってしまってる。
で、「ちょっとー、カーテン閉めたの誰?」って。
いや、分かるよね。
それぐらい分かるよね。
分からなければそっちの方が頭おかしいだろって。
だけど本人には直接は何も言わないんですよ。
で、フンッって感じで席に着くわけですよ。

当然、逆のパターンもあります。
カーテンを閉めたい女が給湯室とかトイレに行くパターン。
で、カーテンを閉めたい女も同じように、カーテンを開けたい女の悪口を言いまくる。
あいつほんと頭悪すぎるわー
あいつ何様のつもりなん?
マジあーいう風にはなりたくないわー

で、トイレもして悪口も言ってスッキリして戻ってきたら、カーテンが開いている。
えっ、明るい・・・
なんか明るいよね?

こっちも一瞬にして目付き変わるから。
きーーーぃって表情になるから。
でね、カーテンを開けたい女とは反対の席の女の子に向かって、
カーテンさっきまで閉まってたよねー
うん、私、カーテン閉めたから
誰がカーテン開けたのかなー
って、あんたもかよ?
いや、もう分かれよ。
分かってくれよ。
あんたも馬鹿かってね。

分かりやすい展開です。
だいぶ違うけど大奥です。
ていうか、女の戦いの構造は大奥の頃と同じなのか?
これが伝統的な女の戦いなんですか?
しばらくこんなのが続きました。
適当に書いて申し訳ないけど、国連に平和維持活動でもお願いしてみる?
少しは平和が戻ってくるかもよ?
そしたら、最近になって、カーテンを閉めたい女の方がメンタル不調になってしまったんです。
で、さすがに国連に相談するわけにもいかなくて、無難なところで社内相談員に相談したらしいんです。

カーテンが開いていたら眩しいんです。
パソコンが見えにくいんです。
背中が熱くなるんです。
紫外線浴びたくないんです。
カーテンを開ける意味が分かりません。
私はカーテンが閉まっていた方が仕事がしやすいんです。
私は本当はもっと仕事ができるんです。
なのにカーテンが開いているせいで・・・
カーテンさえ閉まっていれば・・・
あのカーテンが私は憎い・・・

ちょっとオーバーですが、まーこんなことを話したみたいなんです。
ていうか、社内相談員に相談して解決できると思ったの?
社内相談員なんて退職した世話好きの人が、適当に話を聞くだけだろって。
こんなこと書いたら全国の社内相談員に怒られそうだけど。
しかも、悩みがしょーもなくない?
本人にとっては深刻かもしれないけど。
で、社内相談員は、席替えをするとかして様子を見てみたらどうですかって。
そう言うと思ったよ。
これぐらい僕だって予言できるって。
僕だってこれぐらいしか思い浮かぶこともないし。
以来、最近はカーテンバトルも少し落ち着いてるようだけど。

でもね、僕は、カーテンを閉めたい女に一つ言いたいことがある。

本当にカーテンが閉まっていたら今以上に仕事できるの?
できると思っているの?
出来ないよね?
そもそも、カーテンなんて関係ないよね?
単にカーテンを開けたい女が嫌いなだけでしょ?
カーテンのせいにしてはダメだって。

むしろ、あなたにとっては、
カーテンが開いていた方が都合が良いし、
カーテンを開けたい女が横にいた方が都合が良いんですよ。
ええ、とってもね。
だって、
もしカーテンが閉まっていたら、どれだけ自分は仕事ができるだろう!
もしカーテンを開けたい女がいなければ、どれだけ自分は仕事ができるだろう!

こう思うだけで、自分がどれだけ仕事ができるかって確信を持てるじゃない?
自分はほんとは凄いんだぞって。

もしこれで、カーテン閉められーの、カーテンを開けたい女はいなくなりーので仕事ができなかったらどうするの?
もう言い訳のしようがないですよ。
完全にやっちまったなーですよ。
そう思うと、今のまま不平不満を言いながら仕事をする。
これも良いものかもしれないですよ。
知らんけど。。。

まーね、僕もそうだった。
本当の自分はもっと凄いって。
あれさえなければとか、あいつさえいなければとか。
そんなこと思っていた。
でも今になって少し分かってきた。
自分って大したことないなーと。
遅咲きを信じて頑張ったけど、遅咲きにも程があるとかね。

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